大阪地方裁判所 平成6年(行ウ)78号 判決 1999年3月19日
原告
西村登喜治
外五一名
右五二名訴訟代理人弁護士
戸根政行
同
柴山誉之
同
仲野旭
右戸根政行訴訟復代理人弁護士
岡本久次
被告
岸和田市加守財産区管理者
原曻
右訴訟代理人弁護士
岸田功
同
尾崎博彦
同
山下幸雄
同
中川元
同
辻本俊彦
被告
岸和田市加守財産区協議会
右代表者会長
川﨑藤太郎
外二五名
被告
杉原トミ子
右二六名訴訟代理人弁護士
岡時寿
同
明賀英樹
同
髙見秀一
被告(亡杉原光子訴訟承継人)
杉原真一郎
外四名
右五名訴訟代理人弁護士
岡時寿
同
明賀英樹
同
髙見秀一
同
中村良三
同
黒田一弘
主文
一1 被告岸和田市加守財産区管理者が、被告岸和田市加守財産区協議会に対し、同被告に交付した二一億六〇二〇万円(別紙物件目録記載の土地の処分代金の一部)のうち一〇〇〇万円を岸和田市加守財産区へ返還するよう求めないことが違法であることを確認する。
2 原告らの被告岸和田市加守財産区管理者に対するその余の請求を棄却する。
二1 被告岸和田市加守財産区協議会は、岸和田市加守財産区に対し、一〇〇〇万円を支払え。
2 原告らの被告岸和田市加守財産区協議会に対するその余の請求を棄却する。
三 被告川﨑藤太郎、同杉原博紀、同辻村正晴、同西村甚右エ門、同西村力、同杉原勇、同杉原和三郎、同櫻井福夫、同西村圓次郎、同西村武彦、同西村甚四郎、同荻野薫、同荻野正一、同河埜兵吉、同西村光男、同杉原峰雄、同西村雅博、同早田太、同辻村力雄、同西村仁詞、同杉原治太夫、同杉原金次、同西村敏文、同西村作次及び同杉原トミ子は、岸和田市加守財産区に対し、それぞれ一〇〇〇万円を支払え。
四 被告南皆子は、岸和田市加守財産区に対し、三三三万三三三三円を支払え。
五 被告杉原真一郎、同西川元子、同米玉利隆及び同西尾陽子は、岸和田市加守財産区に対し、それぞれ一六六万六六六六円を支払え。
六 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告岸和田市加守財産区管理者(以下「被告管理者」という。)が、被告岸和田市加守財産区協議会(以下「被告協議会」という。)に交付した二一億六〇二〇万円(別紙物件目録記載の土地の処分代金の一部)のうち、一三億七六六六万二一五〇円を岸和田市加守財産区(以下「加守財産区」という。)へ返還するよう求めないことが違法であることを確認する。
2 被告協議会は、加守財産区に対し、一一億一六六六万二一五〇円を支払え。
3 主文第三項と同旨
4 主文第四項と同旨
5 主文第五項と同旨
6 主文第六項と同旨
二 被告管理者の本案前の答弁
1 原告らの被告管理者に対する訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
三 被告管理者の本案の答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
四 被告協議会、被告川﨑藤太郎(以下「被告川﨑」という。)、同杉原博紀、同辻村正晴、同西村甚右エ門、同西村力、同杉原勇、同杉原和三郎、同櫻井福夫、同西村圓次郎、同西村武彦、同西村甚四郎、同荻野薫、同荻野正一、同河埜兵吉、同西村光男、同杉原峰雄、同西村雅博、同早田太、同辻村力雄、同西村仁詞、同杉原治太夫、同杉原金次、同西村敏文、同西村作次、同杉原トミ子、同南皆子、同杉原真一郎、同西川元子、同米玉利隆及び同西尾陽子(以下、右被告らを合わせて、「被告ら三一名」という。)の本案前の答弁
1 原告らの被告ら三一名に対する訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
五 被告ら三一名の本案の答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告らは、大阪府岸和田市に居住する住民であり、加守財産区の構成員である。
(二) 被告管理者は、岸和田市長であって、加守財産区の代表者である。
(三) 被告協議会は、加守財産区の所有する別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を処分するに当たり、地元住民らの意思を代表するため、平成四年六月五日、地元において結成された団体である。
2 本件土地は、加守財産区所有の「永ノ池」と称する溜池の一部(約二万平方メートル)であったが、岸和田市は、「岸和田市都市計画公園中央公園」事業の一環として総合体育館を建設する用地とするため、加守財産区から本件土地を買収することを計画した。
ところで、岸和田市には、財産区の所有する財産を処分する際の取扱いを定めたものとして、「財産区財産取扱要綱」、「財産区財産取扱手続準則」及びこれらに基づく「財産区財産処分指導要領」(以下、これらを合わせて「取扱要綱等」という。)があって、財産区財産の処分はこれらの規定に従うこととされており、取扱要綱等によれば、財産区財産を処分するに当たっては、関係財産区協議会会長から財産区管理者に対し必要書類を添付の上財産区財産処分申請書を提出することとされている。そこで、本件土地の処分に当たっても、同市は、地元に対して財産区協議会を結成するよう指導し、これを受けて、地元において被告協議会が結成され、被告川﨑が被告協議会の会長に選出された。被告川﨑は、被告協議会の会長として、平成五年六月一七日、「財産区財産処分申請書」を被告管理者に提出し、その結果、加守財産区と同市との間で、同年七月一五日、加守財産区が同市に対して本件土地を代金三〇億八六〇〇万円で売却する旨の売買契約が締結されるに至った。
3 取扱要綱等によれば、財産区財産の処分代金については、そのうち三〇パーセント相当額を岸和田市の一般会計に繰り入れ、七〇パーセント相当額を地元に交付した上、財産区関係町の公共事業費及び水利補償費並びに基金として使用することとされている。そこで、加守財産区の所有財産であった本件土地の処分代金についても、右規定に従い、その三〇パーセントに相当する九億二五八〇万円が都市整備事業費又は農業振興事業費として同市の一般会計に繰り入れられ、七〇パーセントに相当する二一億六〇二〇万円が同市加守地区公共事業費及び水利権等補償費並びに基金として地元に交付されることになった。
また、右の七〇パーセント相当額の金員の交付手続については、取扱要綱等によれば、財産区協議会会長が財産区管理者に対して右金員の交付申請書を提出し、財産区管理者がこれを適当と認めた場合に交付することとされている。そこで、被告川﨑は、右規定に基づき、平成五年七月二六日、被告協議会の会長として、被告管理者に対して「地元公共事業費交付申請書」を提出し、加守耕作者組合として総額一三億九五〇〇万円の公共事業を、地元の加守町四町会において合計七億円余の公共事業をそれぞれ実施するとの名目で総額二一億六〇二〇万円の公共事業費の交付申請をした。被告管理者は、右申請を適当と認め、同年八月一三日、被告協議会に対し、二一億六〇二〇万円(以下「地元交付金」という。)を一括して交付した。
4 その一方で、被告協議会は、被告管理者から交付を受けた地元交付金の処分について決議した。その内容は、二五名の耕作者をもって組織された加守耕作者組合に対して一三億六六六六万二一五〇円を、地元の加守町四町会に対して合計七億四四五六万四八五〇円を、西之内町水利組合に対して三八九七万三〇〇〇円をそれぞれ分配するというものである(なお、残りの一〇〇〇万円は被告協議会の事務局費である。)。
5(一) 被告川﨑、同杉原博紀、同辻村正晴、同西村甚右エ門、同西村力、同杉原勇、同杉原和三郎、同櫻井福夫、同西村圓次郎、同西村武彦、同西村甚四郎、同荻野薫、同荻野正一、同河埜兵吉、同西村光男、同杉原峰雄、同西村雅博、同早田太、同辻村力雄、同西村仁詞、同杉原治太夫、同杉原金次、同西村敏文、同西村作次、同杉原トミ子及び訴訟承継前被告杉原光子(以下「杉原光子」という。なお、以下、これら二六名を合わせて「被告川﨑ら二六名」という。)は、いずれも岸和田市加守実行組合(以下「加守実行組合」という。)の組合員であるが、被告協議会から加守耕作者組合に交付された一三億六六六六万二一五〇円の中から、水利権補償費の名目でそれぞれ一〇〇〇万円ずつの交付を受けた。
(二) 杉原光子は、平成八年四月二九日死亡し、同人の長女である被告南皆子が相続分三分の一の割合で、同人の長男の子である被告杉原真一郎及び同西川元子、同人の三女の子である同米玉利隆及び同西尾陽子がそれぞれ相続分六分の一の割合で、相続により同人の権利義務を承継した。
6 しかし、被告協議会の組織及び地元交付金の分配に関する決議には、次のとおりの問題がある。
(一) 被告協議会は、財産区財産の管理、処分に関し被告管理者の諮問に応じることを目的として結成された法定外の諮問機関であるにすぎず、自ら財産区財産の処分代金の交付を受けたり、これを預かり保管してその分配、処分等をする権限、能力は有していない。
(二) 被告協議会の人的構成が耕作者の方に偏っていて町会側に不利になっていること、議事運営においても、町会側議員は発言を制限されたり出席を拒否されたりしたことなどからみて、被告協議会は、加守財産区を構成する地元住民の総意を適切に代表するに足りる組織ではなく、少数の耕作者の利益を擁護するための組織でしかない。その結果として、地元交付金の一部が、存在してもいない水利権の補償費の名目で被告川﨑ら二六名に分配され、今後もさらに分配されることが予定されているのみならず、被告協議会の決議自体も、地元交付金の六〇パーセントを超える一三億六六六六万一二五〇円を加守耕作者組合が取得するという非常識な内容となったものである。また、被告協議会が加守財産区に提出した議事録の中には、実際には会議に出席していない者が出席したと記載されているなど、虚偽の記載等のある文書も存在している。
(三) 被告協議会が平成五年七月二六日に被告管理者に提出した「地元公共事業費交付申請書」添付の「加守公共事業計画書」(総額一三億九五〇〇万円)に記載された加守耕作者組合の公共事業計画は、すべて虚偽、架空のものであって実施される見込みのないものである。そもそも、右計画書に公共事業の主体として掲げられている加守耕作者組合なる団体そのものが、地元交付金を独占する目的で、わずか二五名の耕作者をもって組織された名目的な存在にすぎず、実体を有する組織ではない。
(四) 本件土地は、「永ノ池」と称する溜池の一部であったが、周辺における耕作面積そのものが激減していること、周辺の田畑の耕作者らは春木川から農業用水を得ていること、本件土地の処分後も永ノ池はまだ約半分が池として残されていることからすると、本件土地の処分によって水利権が侵害されたという事実はない。
また、被告川﨑ら二六名の中には、加守町内に耕作地を有していない者や、耕作のために永ノ池の水を利用していない者等も含まれており、その一方で、周辺に耕作地を有し、永ノ池の水を利用していたにもかかわらず、一〇〇〇万円の分配を受けていない者もある。さらに、現に水田を耕作している者についても、その耕作面積、すなわち水利権の侵害を受ける程度はさまざまである。
これらの点に照らすと、被告川﨑ら二六名に対する一律一〇〇〇万円の分配金が水利権補償費であるとは考えられないし、たとえ水利権補償費であったとしても、その分配方法が妥当なものであるとはいえない。
(五) 過去に加守財産区が所有していた通称「新池」を処分した際には、町会代表者七名、実行組合代表者七名の合計一四名により結成された「財産区財産『新池』開発協議会」の決議に従って処分代金の分配が行われており、その内容も、地元に交付される金員をすべて地区公共事業費として公平に各町に分配し、耕作者への水利権補償名目での分配は行わないというものであった。また、同じく加守財産区が所有していた通称「鯛ノ池」を処分した際には水利権補償が行われているものの、処分代金の管理は最後まで財産区管理者が行っており、具体的な補償方法も、均等割、耕作地割等の詳細な補償基準を設けて実施されたものである。本件において被告協議会が地元交付金の分配について決議した内容は、これら従前における財産区財産処分の際の慣例に反している。
7 被告管理者の被告協議会に対する地元交付金の交付は、地方自治法二三二条の二所定の補助金の支出に当たる。
しかしながら、被告管理者は、公共事業を行う事業主体に当該補助金を交付するのではなく、前記のとおり、単に財産区財産の管理、処分に関し被告管理者の諮問に応じることを目的として結成された法定外の諮問機関であるにすぎず、自ら財産区財産の処分代金の交付を受けたり、これを預かり保管してその分配、処分等をする権限、能力を有していない被告協議会に地元交付金を一括交付することにより、その管理、処分を被告協議会に全面的に委ね、被告管理者の指導も監督も及ばない状態にしてしまっていること、被告協議会が被告管理者に提出した「地元公共事業費交付申請書」添付の「加守公共事業計画書」に記載された加守耕作者組合の公共事業計画(総額一三億九五〇〇万円)はすべて虚偽、架空のものであり、加守耕作者組合そのものも実体のない組織であるから、右の一三億九五〇〇万円は架空の公共事業に対して交付されたものであること、被告管理者は、右交付申請書を単に形式的に審査したのみで、そこに記載された公共工事の計画内容や事業費の適正さについて何ら実質的な審査をすることなく、むしろ、前記公共事業計画が虚偽、架空のものであって、実際には被告協議会が受領した金員を虚偽の水利権補償費の名目で実行組合員ら個人に分配する予定であることを認識しながら、あえて申請どおり公共事業費の名目で被告協議会に一括交付したものであること、これらの諸点からして、被告管理者の被告協議会に対する地元交付金の交付行為は、地方自治法の定める補助金交付の要件を全く欠き、その裁量の範囲を著しく逸脱した違法かつ無効なものというべきである。
8 右のとおり、被告管理者から被告協議会に対する地元交付金の交付が違法かつ無効なものである以上、被告協議会が右交付を受けた地元交付金二一億六〇二〇万円、被告川﨑ら二六名がそれぞれ加守耕作者組合を経由してこの地元交付金の中から交付を受けた一〇〇〇万円は、いずれも法律上の原因なしに受領したものであるから、不当利得金に当たる。
なお、被告協議会は、既に地元交付金の大部分を加守耕作者組合その他に交付している。しかし、加守耕作者組合は実体のない組織であり、同組合に交付したとされる金員はいまだ被告協議会の管理の下にあるとみるべきであること、地方自治法二四二条の二第一項の解釈上、被告協議会のように不当利得返還請求の相手方が当該職員でない場合には、現に利益が存在していなくても不当利得金の全額を返還すべき義務を負うと解されること、そうでないとしても、被告協議会は悪意の受益者に当たることからして、被告協議会は、加守耕作者組合に交付済みの金員をも含めて、加守財産区に対し地元交付金の返還義務を負うというべきである。
9 原告らは、平成六年七月一二日、岸和田市監査委員に対し住民監査請求を行ったが、同監査委員は、同年九月八日、原告らに対し、右請求を棄却する旨通知した。
10 よって、原告らは、
(一) 地方自治法二四二条の二第一項三号に基づき、被告管理者が、被告協議会に交付した地元交付金二一億六〇二〇万円のうち、被告協議会から加守耕作者組合に交付された一三億六六六六万二一五〇円と被告協議会の事務局費一〇〇〇万円との合計一三億七六六六万二一五〇円を加守財産区へ返還するよう求めないことが違法であることの確認を求めるとともに、
(二) 同項四号により加守財産区に代位して、不当利得返還請求権に基づき、
(1) 被告協議会に対し、被告協議会が被告管理者から交付を受けた二一億六〇二〇万円のうち、加守耕作者組合に交付した一三億六六六六万二一五〇円から後記(2)の合計二億六〇〇〇万円を控除した残額の一一億〇六六六万二一五〇円と被告協議会の事務局費として留保している一〇〇〇万円との合計一一億一六六六万二一五〇円を加守財産区に支払うこと、
(2) 被告川﨑ら二六名のうち、死亡した杉原光子を除く二五名に対し、被告協議会から加守耕作者組合を経由して受領した各一〇〇〇万円を、被告南皆子、同杉原真一郎、同西川元子、同米玉利隆及び同西尾陽子(いずれも杉原光子の相続人)に対し、杉原光子が受領した一〇〇〇万円を各法定相続分に応じて、それぞれ加守財産区に支払うこと
を求める。
二 被告管理者の本案前の主張
1 原告らは、加守財産区が本件土地の処分代金の七〇パーセントに当たる二一億六〇二〇万円を公共事業費等として地元に交付したことを違法と主張しているのではなく、加守財産区から被告協議会に交付された後の地元交付金につき、地元内部におけるその分配を問題にしているにすぎないのであって、原告らの被告管理者に対するこのような請求は、地方自治法二四二条の二第一項三号所定の怠る事実の違法確認請求には属さない。また、同法上「財産の管理を怠る事実」にいう「財産」には「公金」は含まれないし、既にされた公金の支出の違法確認を求めることも、右規定の予定しないところである。さらに、被告協議会がその決議に従い、地元交付金の一部を加守耕作者組合を経由して被告川﨑ら二六名に交付した行為は、財務会計上の行為に当たらないから、被告川﨑ら二六名に交付された金員につき被告管理者として返還を求めるべきであるとの主張に立脚する原告らの請求は、住民訴訟の対象外というべきである。
以上のとおり、原告らの本件訴えは住民訴訟の対象となるものではないから、不適法である。
2 原告らの本件訴えは、適法な住民監査請求の前置を欠いているから、不適法である。
すなわち、原告らは、本件訴訟において、被告管理者による地元交付金の交付行為ではなく、右交付の後、被告協議会から加守耕作者組合に交付された金員の一部が被告川﨑ら二六名に渡ったことにつき、被告管理者としてその返還を求めないことを違法であると主張しているが、住民監査請求の段階では、右の点は問題とされておらず、被告管理者が被告協議会に二一億六〇二〇万円の地元交付金を交付した行為のうち、一三億六〇二〇万円の交付部分につきその違法性を問題にしていたにすぎないのである。
三 被告ら三一名の本案前の主張
1 原告らの主張が、被告管理者から被告協議会に交付された後の地元交付金についても、それが公金に該当することを前提に、被告管理者によるその管理の違法をいうものであるとすれば、地方自治法上、住民訴訟の対象となる「財産の管理」にいう「財産」には公金は含まれないから、本件訴えはこの点において不適法である。
2 被告管理者から被告協議会に交付された後の地元交付金が公金に該当しないとして、原告らは、被告管理者の公金支出行為に関する違法を主張するのではなく、右交付後の地元交付金に関し、被告協議会の組織構成、議事運営及び決議内容を問題にしているにすぎない。しかし、加守財産区は、岸和田市の「財産区財産取扱要綱」五条に基づき、本件土地の処分代金の七〇パーセントを公共的事業費、水利権等補償費及び基金として被告協議会に交付する必要があるのであり、他方、被告協議会内部における手続及び決議内容の違法性は住民訴訟の対象にはならないのである。
よって、原告らの本件訴えは不適法である。
3 既にされた公金の支出により生じた不当利得等の返還請求権は、同法二四二条の二第一項三号所定の怠る事実の違法確認請求の対象となるものではなく、その怠る事実を前提とした被告ら三一名に対する不当利得返還請求も訴訟要件を欠くことになる。
4 原告らの被告管理者に対する本件違法確認の訴えは、適法な住民監査請求の前置を欠いているから不適法であり、それを前提とした被告ら三一名に対する本件訴えも、同項四号の要件に該当せず、不適法である。
四 被告らの本案前の主張に対する原告らの反論
原告らは、本件訴訟において、被告管理者が被告協議会への地元交付金の一括交付という本来許されない公金の支出をした点を違法であると主張しているのであって、単に被告協議会内部の問題のみを論じているわけではない。したがって、本件訴訟が住民訴訟の対象にならないとの被告らの主張は失当であるし、住民監査請求の前置にも欠けるところはない。
五 請求原因に対する被告管理者の認否
1(一) 請求原因1(一)の事実は知らない。
(二)同1(二)の事実は認める。
(三) 同1(三)の事実は認める。
2 同2の事実は認める。ただし、被告協議会は、地元において自主的に結成された団体である。
3 同3の事実は認める。
4 同4の事実は知らない。
5 同5(一)の事実は知らない。
6(一) 同6(一)の事実は否認する。
(二) 同6(二)の事実は知らない。
(三) 同6(三)の事実は否認する。
(四) 同6(四)の事実のうち、本件土地が「永ノ池」の一部であったことは認め、その余は知らない。
(五) 同6(五)の事実のうち、加守財産区が過去に「新池」、「鯛ノ池」を処分したことは認め、その余は知らない。また、本件における地元交付金の分配が従前の慣例に反するとの点は争う。
7 同7の事実のうち、被告管理者が被告協議会に交付した地元交付金が地方自治法二三二条の二に定める補助金に当たることは認め、その余の事実は否認し、その主張は争う。被告管理者は、同法の趣旨に則り、かつ、岸和田市の定めた取扱要綱等の規定に基づき、適法に被告協議会に地元交付金を交付したものである。
8 同8は争う。
9 同9の事実は認める。
六 被告管理者の主張
1 財産区財産の処分等については、地方自治法二九四条以下の規定によるほかは、同法の趣旨に基づき、これを管理する地方公共団体及びその長(財産区管理者)の裁量に委ねられている。すなわち、被告管理者は、同法の規定の趣旨の範囲内において、財産区財産の処分につき一定の裁量権を与えられており、右裁量権の範囲を逸脱しない限り、その処分行為は適法というべきである。
岸和田市においては、従来から、財産区財産が当該地区の基本財産であり、地元において右財産の処分代金を使って公共事業を実施したいとの意向が強いことを踏まえ、取扱要綱等の規定を設けて、地元住民らにより自主的に結成される財産区協議会が地元の総意を表す機関であることを尊重し、これに財産区財産の処分及びその処分代金の処理についての権限を委ねる方式を採ってきた。財産区財産の歴史的経緯、性格や地元住民の意思を反映させる必要性等を考えると、地元住民の意思決定機関としての財産区協議会に対し、同法二三二条の二所定の補助金として処分代金を一括交付し、その使途を委ねることは妥当であり、他の財産区においても同様の処理がされてきたものである。
2 右のような運用を踏まえ、本件土地を処分した際にも、被告管理者は、取扱要綱等の規定に従い、地元の各町会(自治会)のほか、水利権者及び耕作者の各団体を代表する者を構成員とし、地元住民らの総意を反映する団体として地元において自主的に結成された被告協議会が作成、提出した「地元公共事業費交付申請書」の内容を検討した上、これを適当と認めて、被告協議会に処分代金の七〇パーセントに当たる二一億六〇二〇万円を一括交付し、被告協議会の会長(被告川﨑)らに対して右交付申請書のとおり地元公共事業費として使用するよう説明した上、地元に公共事業の実施を委ねたものであって、被告管理者のこのような措置に裁量権の逸脱があったということはできない。
3 被告協議会は、財産区財産を処分するに当たり地元住民の意思を決定するための議決機関であって、取扱要綱等から明らかなとおり、単なる被告管理者の諮問機関ではなく、地元交付金の交付を受けてその使途を委ねられた機関であるし、取扱要綱等所定の手続が履践されている以上、被告協議会内部の構成やその運営の在り方、さらには交付完了後の地元交付金の使途についてまで被告管理者が管理責任を問われるものではない。
4 以上のとおり、被告管理者から被告協議会への地元交付金の交付に何ら問題はなく、被告管理者が地元交付金の返還を求めないことについても、裁量権の逸脱は認められないから、原告らの被告管理者に対する怠る事実の違法確認請求は理由がないというべきである。
七 請求原因に対する被告ら三一名の認否
1(一) 請求原因1(一)の事実は知らない。
(二) 同1(二)の事実は認める。
(三) 同1(三)の事実は認める。
2 同2ないし5の事実は認める。
3 同6ないし8の事実は、同7のうちの被告管理者の被告協議会に対する地元交付金の交付が地方自治法二三二条の二所定の補助金の支出に当たるとの点を除き、否認し、その主張は争う。
加守耕作者組合は、加守実行組合が非耕作者も構成員に含んでいて被告協議会を構成する団体としては適当でないため、被告協議会の構成団体のひとつとして、平成四年八月二三日、耕作者二五名により設立された団体であって、実体のない組織ではない。
交付申請書に添付された公共事業計画書の内容は、急遽提出したものであるため、概括的なものであり、ひとつの目処にすぎないものではあるが、その内容において虚偽、架空のものではない。
4 同9の事実は認める。
八 被告ら三一名の主張
1 財産区財産は、当該地区の基本財産たる性格を有しているから、右財産の処分代金の大部分をその地区のために使用することは、地方自治法二三二条の二に定める「公益上の必要」に該当する。そこで、岸和田市では、従来から、取扱要綱等を定めて、地元で結成された財産区協議会の決定を尊重する立場を採ってきた。
また、財産区協議会は、財産区住民の意思、利益を反映させるため、取扱要綱等に位置付けられた正式の機関であって、財産区財産の処分のたびに、同市の働きかけで地元住民ら(当該財産が溜池である場合には、耕作者も含めて)の意思を反映する各団体が集まって自主的に結成され、取扱要綱等から明らかなように、財産区財産の処分代金の交付を受け、その交付の趣旨に則って使途を委ねられた団体である。
2 本件土地の処分の際にも、地元の意思、利益を反映するため、地元の耕作者代表及び各町会代表らが出席して、平成四年六月五日に被告協議会が結成されたものであり、被告管理者が、右のような性格を有する被告協議会に対し、取扱要綱等の趣旨に則って地元交付金を交付することは、被告管理者の裁量権の範囲内というべきである。したがって、地元交付金が補助金に当たるか否かを問うまでもなく、被告管理者による地元交付金の交付行為に違法なところはない。
3 被告協議会が交付を受けた地元交付金の分配については、次のとおりである。すなわち、
(一) 被告協議会は、加守耕作者組合に一三億六六六六万二一五〇円、西之内町水利組合に三八九七万三〇〇〇円、加守町一丁目町会に一億八一七二万八〇八〇円、同町二丁目町会に一億九八一九万六八〇〇円、同町三丁目町会に一億五八六二万三四九〇円をそれぞれ交付しており、右のうち加守耕作者組合に交付された金員の一部が加守実行組合(水利部を含む。)を経由して被告川﨑ら二六名にそれぞれ一〇〇〇万円ずつ交付されている。
(二) 右のほか、被告協議会は、加守町四丁目町会にも二億〇六〇一万六四八〇円を交付することになっているが、同町会が被告協議会に正式の申請手続をしていないため、被告協議会がこれを保管している。それ以外に被告協議会が保管しているのは、被告協議会運営費(事務局費)の一〇〇〇万円だけである。
4(一) 被告川﨑ら二六名は、従前から永ノ池の管理等に携わってきた者であって、永ノ池の一部である本件土地の処分につき当然その代償を受ける権利があるから、これらの者が受領した金員は、法律上の原因のない受益には当たらない。なお、財産区財産の処分代金の一部を水利権補償費に充てることは、加守財産区の所有財産であった「鯛ノ池」を処分した際にもその例があること、岸和田市の「財産区財産取扱要綱」五条にも「水利権等補償」が明記されていること、地元交付金の交付申請書に先立ち被告協議会の会長から被告管理者に宛てた依頼書にも「水利権等補償費」を明記していることからして、何ら違法とされることではない。
(二) また、被告川﨑ら二六名が交付を受けた金員は、被告協議会、加守耕作者組合、加守実行組合及び同組合水利部を経由したものであるから、被告管理者による地元交付金の交付行為と被告川﨑ら二六名の金員受領との間に直接の因果関係はなく、被告川﨑ら二六名の不当利得は成立しない。
5 被告協議会には、前記3(二)のとおりの合計二億一六〇一万六四八〇円しか残っておらず(そのうち、加守町四丁目町会に交付される予定の二億〇六〇一万六四八〇円については、本件請求に含まれていない。)、原告らの主張するような受益はない。また、被告協議会は悪意の受益者でもない。
6 被告管理者は、取扱要綱等の規定に従って地元交付金を被告協議会に交付したにすぎず、加守財産区が右交付によって損失を被ったということはできない。したがって、この点からも、被告ら三一名に不当利得は成立しない。
理由
一 請求原因1(一)の事実は弁論の全趣旨によって認められ、同1(二)、(三)及び9の事実は当事者間に争いがない。
二 被告らの本案前の主張について
1 被告らは、原告らは本件訴訟において、加守財産区から被告協議会に交付された後の地元交付金につき、地元内部におけるその分配を問題にしているにすぎないから、このような請求は、地方自治法二四二条の二第一項所定の住民訴訟の対象外である旨主張するところ、たしかに、原告らは、加守財産区から被告協議会に交付された地元交付金のうち、加守町四町会に既に分配され、又は分配される予定の金員については、本件請求(被告管理者に対する怠る事実の違法確認請求及び被告協議会に対する加守財産区への不当利得返還請求)から除外しており、かつ、その主張においても、被告協議会の権能、構成、決議方法及び地元交付金の分配に関する決議内容につき種々の問題を指摘している。
しかしながら、本件請求の趣旨及び原因を全体として解釈すれば、原告らは、結局のところ、被告管理者が被告協議会から提出された「地元公共事業費交付申請書」の内容を適当と認めて総額二一億六〇二〇万円の地元交付金を被告協議会に一括交付した行為が財務会計上の行為に該当するとして、その行為が違法かつ無効である旨主張し(請求原因3、7)、右主張を前提として、請求の趣旨第1項において、地元交付金の一括交付が違法かつ無効であるにもかかわらず、被告管理者が当該金員のうちの一部(一三億七六六六万二一五〇円)につきその不当利得返還請求権を行使しないこと(怠る事実)が違法であることの確認を求め、併せて、請求の趣旨第2ないし第5項において、右怠る事実の相手方である被告ら三一名に対し、右交付を受けた金員(被告協議会)又は被告協議会から加守耕作者組合を経由して交付を受けた金員(被告川﨑ら二六名)が不当利得金に当たることを理由にその一部又は全部を加守財産区へ返還するよう求めていることが明らかというべきである。そして、被告協議会が、加守財産区所有の本件土地を処分するに当たり、地元住民らの意思を代表するため地元において結成された団体であること(請求原因1(三))は、被告らとの間で争いがなく、被告管理者の被告協議会に対する地元交付金の交付が地方自治法二三二条の二所定の補助金の支出に当たることも、原告らと被告管理者との間において争いがなく、被告ら三一名においても明らかには争わないところであって、右地元交付金の交付行為が、公金の支出として住民訴訟の対象となる財務会計上の行為に当たることは明らかである。
さらに、被告管理者は、被告協議会がその決議に従い、地元交付金の一部を加守耕作者組合を経由して被告川﨑ら二六名に交付した行為は、財務会計上の行為に当たらないから、被告川﨑ら二六名に交付された金員につき被告管理者として返還を求めるべきであるとの主張に立脚する原告らの請求は、住民訴訟の対象外であって不適法である旨主張するけれども、この点は、被告協議会から既に他へ交付された金員についてなお不当利得金に当たるということができるか否か、すなわち原告らが代位行使すべき加守財産区の有する実体法上の請求権の存否という本案の問題であると解することができるから、右の点を理由に本件訴えが不適法であるということもできない。
2 被告らは、地方自治法上住民訴訟の対象となる「財産の管理」にいう「財産」には「公金」は含まれないことを理由に、本件訴えは不適法であるとも主張する。
しかし、右1に説示したところから明らかなとおり、原告らは、被告管理者が債権である不当利得返還請求権の行使を怠っていることを違法であると主張してその違法確認を求めているのであって、「公金の管理」を怠っている旨主張しているのではなく、また、被告協議会が地元において結成された団体であって、地元交付金の交付が補助金の支出に当たることは前示のとおりであり、被告協議会が地方自治法その他の法令に根拠を有する財産区の機関でないことも明らかであるから、被告協議会が加守財産区の内部組織であると解することはできず、したがって、被告協議会に交付された後の地元交付金は、もはや「公金」たる性格を失ったものとみるのが相当である。
3 被告管理者は、既にされた公金の支出の違法確認を求めることは、地方自治法二四二条の二第一項三号の予定しないところであって不適法であると主張し、被告ら三一名も、既にされた公金の支出により生じた不当利得等の返還請求権は、同号所定の違法確認請求の対象となるものではなく、その怠る事実を前提とした被告ら三一名に対する不当利得返還請求も訴訟要件を欠くことになると主張するけれども、原告らの被告管理者に対する請求は、被告管理者が債権である不当利得返還請求権の行使を怠っていることの違法確認を求めるものであって、既にされた地元交付金の交付(公金の支出)そのものの違法確認を求めるものではないし、財務会計上の行為である公金の支出が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の不当利得返還請求権が同法にいう「財産」に当たらないと解すべき理由も見出せないから(同法二三七条一項、二四〇条一項)、被告らの右主張は失当である。
4 被告らは、原告らの本件訴えは適法な住民監査請求の前置を欠いているから不適法であると主張する。
しかしながら、証拠(甲二四、二五)によれば、原告らは、岸和田市監査委員に対する住民監査請求において、被告管理者が被告協議会及び被告協議会の会長に対して二一億六〇二〇万円の地元交付金を交付した行為は違法、不当であり、被告管理者は右交付した地元交付金を回収の上、改めて妥当な交付を行うべきであるとの請求をしていたことが認められるところ、本件訴訟における原告らの請求が、右地元交付金の一括交付が違法かつ無効であることを前提として、それにもかかわらず、被告管理者が当該金員のうちの一部につきその不当利得返還請求権を行使しないこと(怠る事実)が違法であることの確認を求め、併せて、右怠る事実の相手方である被告ら三一名に対し、これらの者が交付を受けた金員が不当利得金に当たることを理由に、その一部又は全部を加守財産区に返還するよう求めるものであることは前記説示のとおりであるから、本件訴訟の対象となっている怠る事実については、住民監査請求を経ていることが明らかであり、原告らの本件訴えは、適法な住民監査請求の前置の要件を満たしているというべきである。
5 以上のとおり、被告らの本案前の主張はいずれも採用することができない。
三 被告協議会に対する地元交付金の交付の違法性について
1 請求原因2、3の事実は当事者間に争いがない。
2 同4の事実は、被告ら三一名との間では争いがなく、被告管理者との間では弁論の全趣旨によって認められる。
3 財産区は、特定の財産又は公の施設の管理及び処分又は廃止を行うため、市町村及び特別区のうち一定範囲の区域において設立される特別地方公共団体であって、特定の財産又は公の施設、区域及びその区域の住民を構成要素としており、独立の法人格を有するものの、その権能は、所有する財産又は公の施設の管理及び処分又は廃止に限定されている(地方自治法一条の二第三項、二条一項、一一項、二九四条一項、二九六条の五)。また、財産区の財産等の管理及び処分又は廃止については、地方公共団体の財産等の管理及び処分又は廃止に関する規定による(同法二九四条一項)のであるから、右管理、処分等に関する権限は、当該財産区をその区域に含む市町村又は特別区の議会及び長がそれぞれ議決機関及び執行機関(財産区管理者)として行使することとされている。
4 本件において被告管理者が被告協議会に対してした地元交付金の交付を巡る経緯についてみると、前記1、2の事実のほか、証拠(甲九ないし一二、一七、一八の1・2、一九、二〇、二一の1ないし8、五三、乙一一、三六の1ないし5、三七の1ないし5、三八の1・2、四七、四九ないし五一の各1・2、五二、五三の1ないし4、五四、五五の1ないし4、丙一、六の1ないし7、七、一〇、一九、証人門林洋一、原告西村登喜治本人、被告川﨑本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 岸和田市においては、財産区財産の処分に関する定めとして取扱要綱等の規定が置かれており、取扱要綱等によれば、財産区財産の処分及び右処分代金の処理につき、次のように定められている((1)ないし(4)は財産区財産取扱要綱、(5)ないし(7)は財産区財産取扱手続準則)。
(1) 財産区財産の処分は、関係財産区協議会会長の処分申請に基づき、地方自治法二九四条各項の規定及び岸和田市公有財産規則の規定による。
(2) 財産区財産の処分をしようとするときは、次に掲げる書類を財産区管理者である市長に提出しなければならない。
① 財産区協議会会長の処分申請書
② 財産区協議会議事録
③ 溜池の場合は、耕作者総会議事録
④ 財産区財産関係者の処分に対する同意書
(3) 市長は、右(2)各号に規定する書類が提出されたときは審査し、法令の規定に従い当該財産を処分する。
(4) 財産区財産を売却して取得した金額の処理については、必要経費及び直接整備しなければならない排水路等整備事業費を除いた金額(処分金)の七〇パーセントは財産区関係町の公共的事業費及び水利権等補償費並びに基金に使用するものとし、処分金の三〇パーセントは岸和田市の一般会計に繰り入れるものとする。
(5) 水利権等とは、溜池の水利権、田畑の耕作権、山林原野の入会権又は宅地の借地権をいう。
(6) 一般会計繰入金の使途は、当該財産区協議会会長と協議の上、農業振興事業又は都市整備事業に充当する。
(7) 財産区関係町の公共的事業費及び水利権補償費並びに基金の交付に当たっては、財産区協議会会長が交付申請書を市長に提出し、市長が適当と認めた場合は交付する。
(二) 従来、岸和田市において財産区財産を処分する際には、取扱要綱等にも定められているとおり、そのつど財産区財産の地元において財産区協議会が結成され、当該財産の処分につき同協議会において意思決定をした上、同協議会から提出された処分申請書に基づいて被告管理者がその処分を決定するという手続が採られてきた。また、右処分代金の処理についても、取扱要綱等に定められているとおり、財産区協議会から提出された交付申請書に基づき、被告管理者の判断によりその七〇パーセントが財産区関係町に対し公共的事業費及び水利権補償費並びに基金として交付されるという運用がされてきた。
(三) 岸和田市は、「岸和田市都市計画公園中央公園」の事業用地の一部として、加守財産区の所有する「永ノ池」の一部である本件土地を買収することを計画し、取扱要綱等の規定に則った手続を採るため、加守実行組合及び加守町四町会に対して財産区協議会の結成を働きかけた。これを受けて、加守実行組合では平成四年二月二三日、永ノ池係耕作者総会を開催し、財産区協議会の設置を可決するとともに、同協議会議員一一名を選出し、また、加守町四町会(一ないし四丁目)においても、同年六月五日、合同総会を開催し、同協議会の設置を可決するとともに、同協議会議員八名(ただし、そのうち一名は永ノ池係耕作者総会において選出された議員と重複している。)を選出した。
(四) 右の永ノ池係耕作者総会及び加守町四町会の合同総会において選出された財産区協議会議員らは、同日、被告協議会を結成し、会長に被告川﨑を選出するとともに、岸和田市の指導に基づいて「協議会規程」を定めた。右規程一条によれば、被告協議会は、「加守財産区有財産の処分につき、町民ならびに農民の意思を代表し、その財産管理、処分に関し財産区管理者の諮問に応じる」ことのみが設置の目的とされており、処分代金の一部の交付を受けてこれを管理、処分することや、地元において公共事業を実施することは、その設置目的の中に含まれていない。
被告協議会は、同日の協議の結果、本件土地を岸和田市に売却処分することに賛成し、財産処分申請書を被告管理者に提出することを決議した。
(五) 加守実行組合の組合員のうち、現に耕作に従事している者(合計二五名)は、同年八月二三日、本件土地の処分等につき耕作者らの意思を反映させるため、加守耕作者組合を結成した。
また、被告協議会においては、同年六月ころ以降、本件土地の処分代金の中から被告協議会に交付される予定の地元交付金の分配方法について町会側議員の代表らと耕作者側議員の代表らが協議を重ねた。その結果、加守耕作者組合の代表らと加守町一ないし四丁目の各町会長らは、同年一二月一四日、処分代金から事務局運営費一〇〇〇万円及び西之内町水利組合に対する補償金支払分を除いた残額を、町会五五(ただし、岸和田市の一般会計への繰入れ分を含む。)、加守耕作者組合四五の割合で配分することで合意した。
(六) 被告川﨑は、平成五年六月一七日、被告協議会の会長として、被告管理者に対し、本件土地を岸和田市都市計画公園中央公園事業用地として処分したい旨記載した「財産区財産処分申請書」を、必要書類を添付して提出するとともに、本件土地の処分代金については、その三〇パーセントを都市整備事業費又は農業振興事業費として岸和田市の一般会計へ繰り入れ、残り七〇パーセントを加守地区公共事業費及び水利権等補償費並びに基金として地元へ交付したい旨記載した「財産区財産処分金の処理について」と題する書面を提出した。
(七) 本件土地は、同年七月一五日、加守財産区から岸和田市に対し代金三〇億八六〇〇万円で売却され、加守財産区は右代金を受領した。
(八) 被告川﨑は、同月二六日、被告協議会の会長として、被告管理者に対し、「地元公共事業費交付申請書」を提出し、右代金の七〇パーセントに相当する二一億六〇二〇万円の交付を申請した。右申請書は、被告管理者の側から示された書式等を参考にして被告協議会において作成されたものであるところ、右申請書には、「加守公共事業計画書」及び「地元公共事業計画書」と題する各書面が添付されており、前者の「加守公共事業計画書」には、いずれも加守耕作者組合を事業主体とし、工期を同年八月又は同年八月ないし平成六年とする総額一三億九五〇〇万円の事業(合計七件)が、後者の「地元公共事業計画書」には、加守町一ないし四丁目の各町会を事業主体とする総額六億一八五〇万円の事業(下水道工事、集会所建設工事等)及び被告協議会基金一億五〇〇〇万円がそれぞれ記載されていた(以上の事業費の合計は二一億六三五〇万円)。
もっとも、右の「加守公共事業計画書」に記載されている各事業は、事業主体とされている加守耕作者組合においても、交付申請書を作成、提出した被告協議会においても、右交付申請時までに、その具体的な内容やそれに要する費用額等が確定していたものではなく、また、右計画書の「事業名」欄にも「事業の内容」欄にも、「加守実行組合農業振興事業」(三億円)、「加守水利組合振興補助事業」(一億七〇〇〇万円)、「加守耕作者組合農業振興補助事業」(三億六五〇〇万円)、「永ノ池係分岐水路堰並びに水利人管理棟補修事業」(一五〇〇万円)、「春木川湯堰地敷並びに水路等整備事業」(四五〇〇万円)、「永ノ池堤塘整備事業補助基金」(三億五〇〇〇万円)、「加守耕作者組合農事振興事業」(一億五〇〇〇万円)といった程度の項目だけしか記載されていないため、書面上も、事業の具体的内容は明らかになっていなかった。
(九) 被告管理者は、被告協議会からの右交付申請に基づき、平成五年八月一三日、被告協議会に対し、地方自治法二三二条の二所定の補助金として、二一億六〇二〇万円の地元交付金を一括して交付した。その際、被告管理者は、取扱要綱等の規定に従い、被告協議会から提出された「地元公共事業費交付申請書」並びにこれに添付されている「加守公共事業計画書」及び「地元公共事業計画書」の適否を審査したが、その審査方法としては、記載上の不備がないかどうか、事業名及び事業の内容として記載された各項目がその記載面から公共性のあるものかどうかを検討したのみであって、被告協議会の設置目的及び権能、記載された事業の具体的内容がどのようなものであるかという点や、各事業に要する費用額が適正かどうかという点は一切考慮せず、被告協議会にそれらの点について説明を求めることもしなかった。
(一〇) 被告協議会においては、加守耕作者組合の代表らと加守町一ないし四丁目の各町会長らとの間における地元交付金の分配に関する前記(五)の合意を踏まえ、同年七月二四日、同組合及び各町会から公共事業計画書を提出させた上で(その内容は、前記「地元公共事業費交付申請書」に添付された「加守公共事業計画書」及び「地元公共事業計画書」と同じである。)、被告管理者から交付を受けた地元交付金二一億六〇二〇万円につき、同年九月二五日、加守耕作者組合に一三億六六六六万二一五〇円を、西之内町水利組合に三八九七万三〇〇〇円を、加守町四町会に合計七億四四五六万四八五〇円(一丁目町会に一億八一七二万八〇八〇円、二丁目町会に一億九八一九万六八〇〇円、三丁目町会に一億五八六二万三四九〇円、四丁目町会に二億〇六〇一万六四八〇円)をそれぞれ分配し、残りの一〇〇〇万円は事務局の運営費として被告協議会に留保する旨決議した。これら分配予定の各金員は、四丁目町会に対する分配予定金が被告協議会に保管されているほかは、既に右決議のとおりに交付されている。
(一一) 被告管理者は、被告協議会に交付した後の地元交付金についてはその処理をすべて被告協議会に委ねたものとして、その処分につき指導監督する意思を有しておらず、現実に地元交付金がどのように使用ないし分配されているかについては、現在に至るまで検査、確認すら行っていない。
5 ところで、財産区がその所有する財産を処分して得た代金は、当該財産区に帰属する公金に当たるものであって、その管理、処分等に関する権限は当該財産区の執行機関である財産区管理者に属しており、同管理者は右管理、処分等に関して一定の裁量権を有するものと解するのが相当であるが、一方において、右処分代金が公共的性格を有するものであることや、財産区の権能に制限があること(前記3)に照らし、同管理者の管理、処分等の方法に右裁量権の逸脱、濫用があったと認められる場合には、右管理、処分等の権限行使は違法性を有することになるというべきである。この点に関しては、財産区の権能がその所有する財産又は公の施設の管理及び処分又は廃止に限定されていることとの関係で、当該財産区の地元における公共事業ではあっても、当該財産区に属する財産又は公の施設の管理等には含まれない事業のために、財産区管理者が右処分代金を支出すること自体の適法性がまず問題となるところ、財産区の制度が、市制町村制の施行に当たり、財産を有する村落共同体に市町村とは別個の法人格を与え、これによって当該財産区の住民が従前から右財産について有していた利益を確保できるようにすることを意図して設けられたものであり、当該財産区財産が元来その地域における基本財産であったという沿革に鑑みると、右財産の処分代金を前記のような公共事業のために支出すること自体は、地方自治法の禁止するところではないと解するのが相当である。そして、このことは、財産区管理者が地元における公共事業のために同法二三二条の二所定の補助金として右処分代金を支出する場合であっても同様であるというべきである。
そうすると、本件において被告管理者が被告協議会に対し同法二三二条の二所定の補助金として地元交付金を交付したことは、そのこと自体によって直ちに、被告管理者に与えられた裁量権を逸脱、濫用したものであって、違法性を有すると解することはできない。
6 そこで次に、被告管理者による地元交付金の交付が同法二三二条の二の要件を満たすか否かにつき検討する。
右交付に関しては、前記4認定のとおり、(一) 岸和田市においては、取扱要綱等の規定により、財産区財産の処分は、関係財産区協議会会長の処分申請に基づいて行うこと、その処分代金から必要経費等を除いた金額の七〇パーセントは財産区関係町の公共的事業費及び水利権等補償費並びに基金として使用すること、右処分代金の交付に当たっては、財産区協議会会長が交付申請書を被告管理者(市長)に提出し、被告管理者が適当と認めた場合に交付することが予め定められており、従来、同市において財産区財産を処分する際には、そのつど地元において財産区協議会が結成され、同協議会から提出された処分申請書に基づいて右処分が行われるとともに、右処分代金の七〇パーセントは、同協議会から提出された交付申請書に基づき、当該財産区から地元へ交付されるという運用がされてきたこと、(二) そこで、本件土地の処分に際しても、同市からの働きかけによって、耕作者ら及び地元各町会をそれぞれ代表する議員らにより被告協議会が結成され、被告協議会の処分申請に基づいて右処分が行われたこと、(三) 被告協議会は、その規程上、「加守財産区有財産の処分につき、町民ならびに農民の意思を代表し、その財産管理、処分に関し財産区管理者の諮問に応じる」ことのみが設置の目的とされており、処分代金の一部の交付を受けてこれを管理、処分することや、地元において公共事業を実施することは、その設置目的の中に含まれていないこと、(四) 被告川﨑は、被告協議会の会長として、本件土地の処分代金の七〇パーセントに当たる地元交付金の交付を受けるため、取扱要綱等の規定に従い、地元で実施する予定の公共事業を記載した公共事業計画書を添付した「地元公共事業費交付申請書」を被告管理者に提出したが、右公共事業計画書のうち、少なくとも加守耕作者組合を事業主体とする「加守公共事業計画書」については、右計画書に記載されている各事業は、事業主体とされている加守耕作者組合においても、交付申請書を作成、提出した被告協議会においても、右交付申請時までにその具体的内容やそれに要する費用額等が確定していたものではなく、また、右計画書の「事業名」欄にも「事業の内容」欄にも極めて概括的な項目だけしか記載されていないため、書面上も、事業の具体的内容は明らかになっていなかったこと、(五) それにもかかわらず、被告管理者は、右のような公共事業計画書が添付されているにすぎない前記交付申請書の記載を形式的に審査したのみで、被告協議会の設置目的及び権能、右計画書に記載された事業の具体的内容や費用額の適否は一切考慮せず、被告協議会にそれらの点について説明を求めることもなく、被告協議会に対し、地方自治法二三二条の二所定の補助金として二一億六〇二〇万円の地元交付金を一括して交付したこと、(六) 被告管理者は、被告協議会に交付した後の地元交付金の処理について被告協議会を指導監督する意思を有しておらず、現実に地元交付金がどのように使用ないし分配されているかにつき検査、確認すら行っていないことが明らかである。
これらの事情に加えて、前記公共事業計画書に記載された事業が現実に施行に移されていることを認めるに足りる証拠は存しないことをも併せ考えると、被告管理者の被告協議会に対する地元交付金の交付は、形式的に地方自治法二三二条の二所定の「補助」という体裁が採られてはいるものの、その実質においては、取扱要綱等の規定及び岸和田市における従来からの運用を根拠とする既定の方針に沿って、金員の具体的な使途等は一切問うことなく、予め決められているとおりに本件土地の処分代金の七〇パーセント相当額を一括交付したにすぎないものというべきであり、現に被告管理者として同条所定の要件である公益上の必要性につき具体的に審査した事実も認められないのであるから、右交付は、同条所定の「補助」に名を借りた違法な公金の支出に当たるものといわざるを得ない(なお、右交付につき、同条のほかに支出の法的根拠を見出すことはできない。また、取扱要綱等は、条例等に根拠を置くものではなく、単に行政庁の内部における事務処理基準を定めたものにすぎないと解されるから、これらの規定に従ったからといって右交付が適法になるわけではないし、岸和田市において従来から同様の運用がされてきたことも、本件における違法性の存否の判断に影響を与えるものではない。)。この点に関し、被告らは、財産区財産が当該地区の基本財産であることなどの理由から直ちに、その処分代金の地元への交付は公益上の必要性を有するというべきである旨主張するようであるけれども、財産区財産の処分代金であるからといって補助金の交付に関する法律上の要件を緩やかに解してよいとする理由は見出せないのであって、被告らの右主張は採用することができない。
そして、右公金の支出が「補助」に名を借りた法的根拠に基づかない支出であり、前記認定によれば、被告管理者としてもそのことは承知の上で支出を行ったと考えられることからすると、右違法は重大かつ明白であるといわざるを得ないから、本件における地元交付金の交付は無効な行為であると解するのが相当である。以上に反する被告らの主張はいずれも採用することができない。
四 被告協議会の不当利得の成否について
1 被告管理者の被告協議会に対する地元交付金の交付行為が違法、無効であることは前記三で説示したとおりであるから、被告協議会が受領した地元交付金二一億六〇二〇万円はその全額が不当利得に当たるものと解することができる。
被告ら三一名は、被告管理者は取扱要綱等の規定に従って右交付をしたにすぎず、加守財産区が右交付によって損失を被ったということはできない旨主張するけれども、右主張は採用することができない。
2 もっとも、前記三4認定の事実によれば、被告協議会としては、取扱要綱等の規定や岸和田市における従来の運用及び本件土地処分の際の被告管理者側の指導等から、当然かつ適法に地元交付金の交付を受けることができるものと考え、被告管理者の指導に従って「地元公共事業費交付申請書」を提出し、その結果地元交付金の交付を受けたものであるから、悪意の受益者に該当するとは認められないところ、前記三4(一〇)で認定したとおり、被告協議会は、受領した地元交付金の中から、加守耕作者組合に一三億六六六六万二一五〇円を、西之内町水利組合に三八九七万三〇〇〇円を、加守町一丁目町会に一億八一七二万八〇八〇円を、二丁目町会に一億九八一九万六八〇〇円を、三丁目町会に一億五八六二万三四九〇円を既に交付しており、被告協議会のもとに留保されているのは、四丁目町会に対する分配予定金二億〇六〇一万六四八〇円と被告協議会事務局運営費の一〇〇〇万円にすぎないのであるから、被告協議会が被告管理者に対して返還義務を負うべき現存利益としては、右留保分の合計二億一六〇一万六四八〇円の範囲にとどまるものというべきである(ただし、被告協議会のもとにある右金員のうち四丁目町会に対する分配予定金二億〇六〇一万六四八〇円は、本訴請求〔請求の趣旨第1、第2項〕の対象とされていない。)。
右の点に関し、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項の解釈上、被告協議会のように不当利得返還請求の相手方が当該職員でない場合には、現に利益が存在していなくても不当利得金の全額を返還すべき義務を負うと解される旨主張するけれども、同項四号後段所定の財務会計上の行為又は怠る事実の相手方に対する請求権については、民法の規定に照らしてその存否を判断すべきものと解するのが相当であるから、原告らの右主張は採用することができない。
3 右によれば、被告協議会は事務局運営費として留保している一〇〇〇万円につき、加守財産区に対し、不当利得金として返還すべき義務を負っており、他方、それにもかかわらず、被告管理者が被告協議会に対して右不当利得金の返還請求権を行使していないことは、違法に財産の管理を怠る場合に該当するというべきである(なお、同一の怠る事実について同項三号所定の違法確認請求と同項四号所定の請求との双方が成立するときは、両請求のうちのいずれか一方を選択するか、あるいは両方の請求をするかは、原告ら住民の意思に委ねられていると解するのが相当であるから、原告らが後者の請求をしているからといって、前者の請求が不適法になるわけではない。)。
4 したがって、被告管理者が被告協議会に交付した二一億六〇二〇万円のうち、一三億七六六六万二一五〇円を加守財産区へ返還するよう求めないことが違法であることの確認を求める原告らの請求の趣旨第1項の請求及び被告協議会に対し加守財産区へ一一億一六六六万二一五〇円を支払うよう求める原告らの請求の趣旨第2項の請求は、いずれも一〇〇〇万円の限度で理由があり、その余は理由がないということになる。
五 被告川﨑ら二六名の不当利得の成否について
1 被告協議会が加守耕作者組合に対し、被告管理者から交付を受けた地元交付金二一億六〇二〇万円の中から一三億六六六六万二一五〇円を交付したことは前記のとおりであり、さらに、加守実行組合の組合員であった被告川﨑ら二六名が加守耕作者組合に交付された右一三億六六六六万二一五〇円の中から水利権補償費の名目でそれぞれ一〇〇〇万円ずつの交付を受けたこと(請求原因5(一))は、被告ら三一名との間では争いがなく、被告管理者との間では弁論の全趣旨によって認められる。
2 しかして、被告管理者の被告協議会に対する地元交付金二一億六〇二〇万円の交付行為が違法、無効であって、被告協議会が受領した地元交付金はその全額が不当利得に当たることは前示のとおりであり、すなわち、被告管理者から被告協議会に対する地元交付金の交付により、加守財産区は地元交付金と同額の損失を被ったものであり、一方、被告川﨑ら二六名は、被告協議会が被告管理者から交付を受けた地元交付金のうち、加守耕作者組合に交付された一三億六六六六万二一五〇円の中から水利権補償費の名目でそれぞれ一〇〇〇万円ずつの交付を受けたものであり、被告管理者が被告協議会に交付した地元交付金の一部が、加守耕作者組合を経たものの、そのまま被告川﨑ら二六名に渡ったものであるから、右加守財産区の損失と被告川﨑ら二六名の受益との間には直接の因果関係があるというべきである。
そして、被告協議会としては、取扱要綱等の規定や岸和田市における従来の運用及び本件土地処分の際の被告管理者側の指導等から、当然かつ適法に地元交付金の交付を受けることができるものと考えていたことは前示のとおりであるけれども、被告川﨑ら二六名が交付を受けた右各一〇〇〇万円は、名目が水利権補償費であるとはいうものの、その水利権補償の基準は不明であり、被告川﨑ら二六名は、各人の耕作面積等、本件土地の処分によって永ノ池の水の利用に支障が出る度合のいかんにかかわらず、一律に一〇〇〇万円の交付を受けたのであるから、水利権補償費というのは単に名目だけであって、被告川﨑ら二六名が右各一〇〇〇万円の交付を受けるべき正当な理由はなく(被告協議会の代表者であって、自らも右一〇〇〇万円の交付を受けた一人である被告川﨑は、その本人尋問において、右各一〇〇〇万円交付の趣旨、理由につき、「水利補償のたぐいと思う。」とか、「水利補償ではなく、実行組合で出資証券とか農作業の事業をしていたこと、実行組合水利部が池の管理、溝掘り、水路の管理をしていたこと、その他農業に関係するもろもろの代償である。」と供述するが、極めて曖昧であるだけでなく、その算定の根拠も説明できず、右供述その他本件全証拠によっても、結局、右各一〇〇〇万円交付の趣旨、理由を認定することはできない。)、仮に被告川﨑ら二六名において右交付を受けるべき正当な理由があると考えていたとしても、そのことについて重大な過失があるというべきであり(被告協議会の代表者であって、自らも右一〇〇〇万円の交付を受けた一人である被告川﨑自身、右のとおり、一〇〇〇万円交付の趣旨、理由を明確に説明できないのである。)、したがって、被告川﨑ら二六名による受益は、加守財産区との関係で法律上の原因を欠き、不当利得となるというべきである。以上に反する被告ら三一名の主張は、いずれも採用することができない。
3 そうすると、被告川﨑ら二六名は、不当利得としてそれぞれ右一〇〇〇万円を加守財産区に返還すべき義務を負うということになる。
そして、請求原因5(二)の事実(杉原光子の相続関係)は、被告ら三一名との間で争いがない。
したがって、被告川﨑ら二六名(ただし、杉原光子については相続人)に対し、加守財産区へそれぞれ一〇〇〇万円(ただし、杉原光子の相続人については各法定相続分)を支払うよう求める原告らの請求の趣旨第3ないし第5項の各請求は、理由があるということになる。
六 結論
以上のとおりであるから、原告らの請求の趣旨第1項の請求は、被告管理者が被告協議会に対し地元交付金のうち一〇〇〇万円を加守財産区へ返還するよう求めないことが違法であることの確認を求める限度で、請求の趣旨第2項の請求は、被告協議会に対し加守財産区へ一〇〇〇万円を支払うよう求める限度で各認容し、その余をいずれも棄却し、原告らの請求の趣旨第3ないし第5項の各請求を認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官水野武 裁判官石井寛明 裁判官石丸将利)